特許コラム

2010年12月 8日 水曜日

特許庁面接(6)

以前の記事はこちら。
 
しつこく続くこのシリーズ、第6回となりました。書くほうもそろそろ飽きてきたので、そろそろまとめに入りましょう。
 
ポイント⑦ 臨機応変に
当然のことですね。事前にあれこれと決めたところで、面接は「審査官」という相手があることです。相手がこちらの思ったレールに乗ってくれないことだってあるわけです。
 
そういうときに、どこまで臨機応変な対応ができるかは当然のことながら重要です。ましてや、
で書いたように、出願人側で面接をコントロールしようとするなら、どこまで審査官の言葉に、俊敏に応じられるかということは重要です。
とは言うものの。
 
「臨機応変」にやりなさい、と言われてできるのなら誰も苦労はしないわけです。「臨機応変」にやるにはどうしたらいいのか、をこそ皆知りたいわけですが、どうすれば「臨機応変」にできるか、なんてこと教えようがありません。
 
というわけで、こんなこと、書いてみたところでどうしようもないことです。
とりあえず、面接における目的は何か、論点のなかでどこを突破しなければならないのか、ここだけは譲れない線はどこなのか、という議論の主眼となるポイントをきっちりと抑えておいて、そこだけは絶対にぶれず、その他のところはできるだけ自由に、ということが大事なのでしょうね。
 
要は、「ここだけは譲れない」というラインを自分の心のなかできちんと引いておけば、後はそこからずれないようにすればいいわけです。
と言うと簡単そうですが、この辺りがきちんとできるかどうかはセンスです。こういうことを頭において、色々と考えることでセンスは磨かれていくものですので、自分なりに考えてみて下さい。
 
ポイント⑧ 気楽に構えて
あまり緊張しても仕方がないです。
別に面接の場で全てが決まるわけではないですし、ダメだったら審判するなり、分割出願をするなり、そのほかの手もあります。
 
また、面接の場ですべてを決めなくても、「そこはまだ考えていなかったところなので、かえってもう一度検討します」と答えてもいいわけです。
要は、
「面接で、一つでもいいから特許を取得するために重要な事項をつかめれば、それでよし」
くらいの気持ちでちょうどいいのではないでしょうか。
 
に続きます。

 

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

2010年12月 7日 火曜日

企業知財と特許事務所

 経歴を見て戴ければ分かるとおり、私はかつて某社の特許部で特許の仕事を6年ほど経験した後に特許事務所に転職しました。
 その後、特許事務所での経験を経て、独立に至ったわけですが。
 
 企業知財と特許事務所の両方を経験して分かるのは、両方の仕事が似ているようでいて現実には全然違っている、ということです。
 私が企業知財にいた頃、特許事務所の人が何を考えているのか、全然理解していなかったと思います。また、特許事務所にいるとき、企業知財経験のない所員は、企業知財のことをよく分かっていなかった、とも思います。(更に、独立をしてみて、事務所を経営している弁理士が何を考えているかも全く違う、ということを最近、理解しつつあるのですが、この話はまた別のことです)
 
 その違いがどんなものかを語りだすと、どれだけの言葉を尽くしても足りないという気がするのですが、「結局は」と落ち着くところもあると思います。
 何かというと、組織自体の目的の違いです。特許事務所の所員は特許事務所の利益のために働いているし、企業知財の人は会社における特許部の遂行すべき任務を果たしています。
 それぞれ、自らの属する組織の利益のために働いている、と言えるわけです。その目的の違いが、それぞれの仕事の性格の違いにもなるわけです。
 
 企業の利益が特許事務所の利益につながるとは限りませんし、逆もまた然りです。企業知財が役割を果たすためには、特許事務所に厳しい目を向けることが必要な場合もあります。そういった立場の違いが、仕事の質、考え方の違いにつながっていくように思います。
 
 そうは言っても、一緒に仕事をする立場である以上、そういう「目に見えない壁」のようなものがなくなって、相互に同一の目的を達成するために仕事をする、という状況ができれば理想ですが、なかなかそうはいきません。そこは、別組織である以上、止むを得ない部分もあります。
 
 とはいえ、少なくとも「相互の信頼関係」がなければ、いい仕事ができないのもまた事実です。それをどうやって構築していくのか。
 それこそが、企業知財にとっても特許事務所にとっても一番重要で難しいことなのかもしれません。このあたりも、また機会があれば、本ブログで色々と突っ込んでいきたいと考えています。

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投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

2010年12月 2日 木曜日

(屁)理屈の世界

「このコーナーでは立ち読みをしないで下さい」
 
 この前、本屋に行ったとき、こんな貼り紙がありました。この貼り紙はマンガのコーナーにありました。
 これを見て、私はううむ、と思ってしまいました。
 
 なぜか。
 これを見た特許業界の人であれば、
「じゃあ、マンガ以外のコーナーでは立ち読みをしてもいい、ということですね」
と、たとえば雑誌コーナーでは立ち読みをしてもよい、という解釈をするということです。
 
 雑誌コーナーでも立ち読みしてはいけないのなら、「立ち読みしないで下さい」と書けばよいだけのことであり、「このコーナーでは」の一言は不要になります。かえって「このコーナーでは」とつけたことで、「その他のコーナー」では立ち読みしてもよい、ということが強調された感さえあります。
 
 でも、この貼り紙を書いた人はそこまでは考えていなかったと思います。マンガのコーナーで立ち読みして欲しくないと思ったからそう書いただけで、他のコーナーでは何時間でも立ち読みしてもいいですよ、ということが言いたかったはずはありません。
 
 まあ、日常生活においてこういう貼り紙を見たからといって、延々と立ち読みするのは褒められた態度ではないですが、特許の世界ではこういう解釈をして、「そんな貼り紙をする奴が悪い」という言い方をするわけです。
 法律というのはずいぶんと意地が悪い世界です。
 
 特許の仕事をされている方は、日常生活ではそんな意地悪はしないでいいですが、仕事中はそういった意地悪な性格を発揮しなければならないということです。

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

2010年12月 1日 水曜日

特許庁面接(5)


以前の記事はこちら。
 
ポイント⑥ 細々した言い訳はしない
 
 言い換えると、できるだけ話を単純化して自信を持って話す、とも言えます。
一つ例を挙げてみましょうか。
 
(例)
 本願発明
「X処理を施した基材M上に、樹脂Aを含有するコーティング剤を塗布する工程を有する基材Mの処理方法」
 
拒絶理由
「X処理を施した基材Mを樹脂Bを含有するコーティング剤で塗布することは引用文献1に記載されている。樹脂Aは、樹脂Bよりも耐熱性に優れた樹脂であることが当業者に周知であるから(例えば、引用文献2,3等)、耐熱性の向上を目的として樹脂Bを樹脂Aに置換する程度のことは当業者の通常の創作の範囲である」
 
そして、樹脂Bを樹脂Aに置換することは当業者に容易ではない、として反論する場合を考えましょうか。
 
ここで、ついやってしまうのが、隙のない反論をしようとするあまり、ものすごく複雑で、聞き手からすれば何のことか分からない論理を作ってしまう、ということです。
上の例に書いたようなケースであっても、基材Mは先行文献と本願とで微妙に違う、X処理でも処理条件が微妙に違う、「樹脂A」でも分子量が違うと性質が変わる、組成物が水系と溶剤系で性質が違う、等と色々文句を言いたいところが多岐にわたることがあるわけです。
 
考慮して欲しいことがたくさんあるからといって、それを全部審査官に伝えることは無理です。30分から1時間程度の短い時間で、何もかも理解してもらうのは、土台無理なのです。
 
ですから、一番重要なポイント1つ(かせいぜい2つ)に論点を絞って、そこを中心に話すべきでしょう。
上の論理で言えば、例えば、樹脂Aは水性のコーティング剤であるが引用文献では溶剤系のコーティング剤しか記載されていなくて、そこから反論することに決めたとしましょうか。
一旦、そこから反論すると判断したのなら、反論はそこに絞るべきだと思います。他の話をするときも、この中心の反論点からの派生事項として話すべき、ということでもあります。
例えば、「本願では水性コーティングにしたから、樹脂Aは分子量が特殊な範囲になっている」というような言い方で、話を一体化するようにすべきです。
 
ついつい、全体をまとめずに「分子量も違う」「前処理の条件が微妙に先行文献と違っている」という話を混ぜたくなるのですが、話を一体化できないのなら、あまり色々な主張を混ぜないほうがいいですよ、ということです。
 
要は、自分が短時間で説明しきれるだけの事項に絞ったほうがいい、ということです。私の場合は、「これ以上話す内容を増やすと、自分では説明しきれないな」という境界線を自分なりに決めていて、その境界線を越える話はしないことにしています。
 
案件によっては、どうしても複雑な話をしなければならない場合もあります。その場合でも、いかに話をぎりぎりまで削ぎ落して単純化するかを考えてください。

言いたいこと全部を詰め込んで、話を必要以上に複雑化したがる方もおられますが、それは逆効果だという気がします。
 
理解してもらうためには、話をどこまで単純化できるかということです。複雑な話をすると「頭のいい人が難しいことを言っている」と思ってくれる場合もあるかもしれませんが、それで「じゃあ特許査定にしましょう」ということにはなりません。
面接は「特許査定を得るためにできることをやる」ものであることをお忘れなく。
 
 これは、必要なこと以外は言わない、ということでもあります。それが非常に難しいことなのですが。どのような形にせよ、主張からいかに贅肉を削ぎ落とすかは非常に重要であると思います。

特許庁面接(6)
に続きます。
 

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

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