特許コラム

2010年6月30日 水曜日

パラメータ特許

 化学の特許で一番多く論じられていることの一つとして、「特殊パラメータ特許」があります。
 これは、出願人独自の評価方法による数値限定を請求項に書いた発明です。
 特許に馴染みの薄い方のなかには、何のこと? とおっしゃる方もおられるでしょうか。
 具体的には、例えば、
(ここに一般的ではない測定方法が入ります)という方法によって測定された~値が○~○である樹脂組成物
といった表現で記載された発明です。
 これは、私が特許の世界に入った15年前より更に昔から既に議論の対象になっていた発明で、当時から色々と議論されていました。
 その後、審査基準の改訂や知財高裁の判例などで、取り扱いの方針が固まってきた、という印象があります。
 現在、パラメータ特許がどのように扱われているのか、パラメータ特許のメリットは何かという話は非常に話が長くなるので、また機会があれば何回かに分けて書かせて戴ききたいと思っています。
 今回は、私が今までに扱った案件のなかで一番印象に残っているパラメータ発明について話をさせて戴きます。
 
 それは、私が会社の特許部で特許の仕事をするようになって1年目の頃、他社の問題特許として挙がってきた案件でした。私のいた会社ではその特許へ異議申立を行うことになっていました。
 当時の私はまだまだ新人で右も左も分からない人間でしたから、重要案件であるその件は先輩のベテラン知財部員の方が担当されました。しかし、自分の担当事業部の案件でしたので、書類は一通り読みましたし、そのときにどんなことが問題になっているのかは自分なりの考察をしていました。
 その特許は樹脂に関する特許で、樹脂に特定の処理を行うと重合触媒が失活することで樹脂の性能が向上する、という内容でした。
 この特許はその「樹脂のある性能」を特殊パラメータで表現して、「方法」ではなく「物」で権利化していました。ちなみに、処理工程は先行文献がまったくない方法なので、方法は誰が見ても確実に権利化されるような発明でした。
 
 その特許に対しては7,8社からの異議申立があり、色々な角度からの異議内容での検討がなされたのですが、最終的に特許は維持されました。
 その当時はそのようなことについて、「ふーん」という気分で見ていただけでした。
 
 しかし、その後パラメータ特許の検討を行ったり、クライアントからパラメータ発明についての相談を受ける機会があったりするなか、思い返してみるとあの件は非常にすごい出願だったのではないか、と思うようになりました。
 私は15年間特許の仕事をやってきましたが、その間、最も強力だと思ったパラメータ発明はあの件だったような気さえします。
 
 そして、近年言われる「サポート要件」や審査基準に書いているパラメータ特許についての新規性・進歩性判断等もクリヤーできるんじゃないか、と思えるような内容でした。この当時は審査基準にパラメータ発明についての記載はほとんどなく、「サポート要件」の判例などまだ出ていなかった時代なのに、です。
 では、あの件についてそこまできちんとパラメータ発明で権利化できていたのはなぜか、というと、やはり
「技術として優れていたから。そして、その技術を特許によって守るために何をすべきか、ということをきちんと考えて戦略的に対策したから」
ということではないか、と思います。
 
 それが平成2年出願の案件でした。
 そう考えると、パラメータ特許というのが古くて新しい問題であることが明らかだと思います。よりよくパラメータ特許を扱うには、判例や審査基準を真剣に検討していくことも重要ですが、それよりも、権利化したい発明の内容を真剣に検討すれば、理屈以外のところから正しい形が見えてくる面があるように思います。
 
 本当はこの案件を具体的に挙げて内容説明できればいいのですが、まだ権利が存続している案件ですから、ここで内容を挙げることはしません。しかし、私自身がパラメータ特許の仕事をするときに、常に基準としているのがあの件になっているのは、今も変わりがありません。


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2010年6月28日 月曜日

論理的思考について(よい弁理士とは?②)

 弁理士は論理的思考ができる人でなければなりません。以前の「よい弁理士とは」というブログの中で、よい弁理士の条件として「論理的思考ができる」ことを挙げました。特許というのは「情」よりも「理屈」の世界ですから、理屈をうまく立てられる人でないと、仕事になりません。
 では、論理的思考とは何かということですが、これがなかなか説明の難しいことです。
 
 特許の世界の「論理的」というのは、普段、研究や開発をしている人が言うところの「論理的」ということとは、かなり違うことのように思います。
 理系の論理と文系の論理は違っていて、研究開発の論理は理系の論理で、特許の論理は基本的に文系の論理なわけです。なにしろ、特許は「法律」の世界ですから。
 でも、特許で扱うものは理系の研究開発結果なので、弁理士は理系の論理も理解していないといけません。技術が理解できなければ、特許についていい仕事をすることは難しくなるでしょう。
 いうなれば、弁理士は理系と文系の思考の両方ができなければならないし、その二つをきちんと使い分けながら、仕事を進めなければなりません。
 
 そういう意味では、優秀な弁理士とは思考が柔軟で複数の思考パターンに対応できるような複眼的な人間ということかもしれません。
 ぱっと見ただけで、目の前の弁理士がそういう人なのかどうか判断する、というとなんか難しそうなことになってしまいます。
 
 しかし、あまりにも偏屈で人の話を聞かず、他人のことを考えない自己中心的な人はそういう複眼的な思考は難しいのでは? という気がします。そういう意味では、冷静で感情的にならずに相手の立場を考えて人と接することが出来る人である、というのは重要な要素に思えます。
 更に、私がかつて法律の本を読んだとき、その最初のところに、
「優れた法律家というのは常識人である」
というようなことが書いていたことを覚えています。研究者や芸術家とは違い、法律家というのは、奇矯な人であってはならない、と。
 うまく説明できませんが、説得力のある言葉です。

 ということで、「論理的思考ができる人」は冷静で常識人っぽい人であること、というのが分かりやすい基準になるのかもしれません。

 
 なんかあれこれと書いた割には、ありきたりな結論ですね。
 しかし、特許を弁理士に頼むときは、「よい弁理士を捕まえられるかどうか」というのがかなり重要になります。ですから、「つまらない結論」などといわずに、こういう基本的なところから弁理士を見極めるよう、頑張ることも重要ではないかと思います。
 
 それにしても、こんな記事を書いてしまうと、「じゃあお前はどうなんだ」という自分で自分に突っ込みを入れてしまうわけですが、以前と同じように、「自分のことは棚に上げて」書かせていただきました。


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2010年6月24日 木曜日

雑感

 ブログを始めさせて戴いて、色々と真面目な話を書いてきたのですが、たまにはゆるい話もと思い、今回はちょっとした雑談を。
 自分自身で今まで書いたブログを読み返すと、なんだか疲れて肩が凝ってしまったので、たまには息抜きも、ということで。

 私がホームページ作成、ブログ開始という運びに至ったのは、深い考えがあったことではありません。まあ、私自身のやることは、大抵はそんなに深い考えがあってのことではないのですが。そもそも、事務所開設自体、それほど深い考えや戦略あってのことではありません。
 前回のブログのなかで「日本の企業は「戦略」に弱い」と書きましたが、そもそも私自身、典型的な戦略に弱い日本人なわけです。
 しかし、「戦略」なんて何もないなかで何となくブログを書いていると、それを通じて自分の考えが色々と整理されてまとまっていくのは事実です。そのことがこの先につながって「戦略」になればいいのか、とも思います。よく分からないままに色々と新しいことをやっていると、新しく見えてくることも出てきて、それが「戦略」につながって行くのかもしれない、と思ったりします。 
 企業が「特許戦略」を考えるのもそんな感じでスタートするのがいいのかもしれません。最初から完璧な「特許戦略」を構築しようと考えると、息が詰まるし、重くなりすぎる面もあるように思います。
 とりあえず、目先のことをやって行きながら、少しずつ体系を作ってそれを「戦略」という形に仕上げていく、という長期スパンでの取り組みが必要かもしれません。
 「ゆるい話」と書きつつ、なんだか堅いことをかいてしまいました。その辺も「戦略不足」ですね。
 もっとゆるい話もそのうち、書いていければと思っています。

 

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2010年6月22日 火曜日

最近読んだ本

 先日、「御社の特許戦略がダメな理由」(長谷川暁司著、中経出版)を読みました。
 非常にいい本でした。著者は元三菱化学の知財部の理事、知的財産部部長という方ですから、化学部門の企業知財の経験としては日本でもトップクラスのキャリアをお持ちの方です。
 内容はそのようなキャリアをお持ちの方でなければ書けないだろうな、という示唆に富むものであり、色々と考えさせられました。

 具体的には企業の知財戦略のあり方についての本であり、挙げられた事例は(当然のことながら)化学特許に関することが多いので、化学以外の分野の方が読まれてどのように思われるかは私にはわかりません。
 しかし、少なくとも化学系の特許を仕事とされている方、化学系の企業(特に技術開発に強みを持つ会社)で経営に携わっておられる方であるなら、必読の書ではないかと思います。また、化学以外の企業の方でも読んで損はないのではないでしょうか。

「知的財産部門だけで特許戦略を立ててはいけない」
「特許戦略は経営者の仕事である」
「『戦わずして競合企業に勝つ』ために」
といった目次に書かれたタイトルを読むだけでも、特許戦略について重要なキーワードが並んでいると思います。

 とにかく、日本の企業は「戦略」に弱い、と思います。しかし、知財によって会社に利益をもたらすためには漫然と特許を出願するのではなく、「戦略」を持つことが必須になります。この本は、会社の「戦略」をどうやって構築するか、ということが書かれた本であり、これから会社の「知財戦略」を考える上では大きな参考になることでしょう。
 ここで具体的な内容について触れるよりも、実際に読んで戴くほうが早いので、具体的な内容について細かに触れることはしません。興味を持たれた方は是非、ご一読下さい。

 と書きましたが、ではこの本で具体的に書かれたようなことをすべての会社がこの通りの形で実施すべきか、と言えばそれは違う、とも感じています。
 知財戦略はは会社ごと、業界ごと、研究テーマごとに少しずつやり方を変えて、ベストのやり方を追求すべきことです。すべての会社にとってベストのやり方は存在するはずがありません。
 ですから、この本に書かれた精神を無視して、形式だけを真似してもうまくいかないでしょう。それよりも、著者が書かれている本質的な精神を理解して、「それでは自分の会社はどうするのがベストなのだろうか」と悩むことも重要ではないかな、と思います。

 更に、自分自身のこととしては、特許事務所の弁理士はこのような姿勢のなかで果たせることがあるのだろうか、との悩みも感じました。特許事務所の弁理士は、このような「知財戦略」に絡むことは少なく、ただ言われたことをやるだけ、という仕事であるケースが非常に多いと思います。
 本当にそれでいいのだろうか、と私はいつも思っています。そのあたりの話は、また別の機会に。

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2010年6月16日 水曜日

よい弁理士とは?

 「弁理士を探す」の項目を書いた際に、「どんな弁理士がよい弁理士なのか」が分からないと、弁理士を探すこともうまくいかない、と書きました。
 では「よい弁理士とはどんな弁理士なのか?」と皆さん思われることでしょう。
 そこで、「よい弁理士とは?」ということについて、書かせて戴くのですが……。
 このブログでこれを書くのは自分の首を絞めないか、というおそれも感じています。ここであまり立派な条件を書きすぎると、それを書いている本人がその条件をまったく満たしていない、という悲しい状態になってしまう危惧も感じています。
 が、それを言ってしまうと、「よい弁理士とは」ということについて、弁理士は議論できないことになってしまうので、今回は自分のことは棚に上げて、「よい弁理士とは」ということについて書かせて戴きます。よって、「お前はどうなんだ」というツッコミはなしでお願いします。
 
 前置きはこれくらいにして、弁理士というのはほとんどの人が弁理士試験に合格して弁理士登録された方です。そして、その「弁理士試験」で試験されることは、法律科目となります。
 しかしながら、弁理士の能力として必要なことは法律知識だけなのか、というとそうではありません。
 日本語能力、技術知識、コミュニケーション能力、論理的思考能力、管理能力、交渉力等、色々と必要とされることがあります。こういった能力をまんべんなく持っていることが必要であり、どこかの能力が極端に低いと、他の能力がいくら高くても弁理士としてはどこか欠如している、ということになってしまいます。
これらのすべてについて、短期間で見極めることはできないと思いますから、まずは、特に重要な要素を説明しましょう。

 それらのなかで、一番重要なのは、結局、コミュニケーション能力ということになるように思います。
 結局、どこのどんな仕事でも一番重要だ、と言われてしまうコミュニケーション能力ですが、弁理士の世界でも最後はここに行きついてしまうように思います。
 「顧客が何を望んでいるかを深いところまで理解して、顧客の希望どおりの仕事をする」ということが代理人の仕事の基本です。それができるかどうかは、特許法の知識とは別の話です。
 更に、分かりやすい日本語で書面をまとめ上げる能力、というのは日本語能力であると同時にコミュニケーション能力でもあると思います。コミュニケーション能力が高い人は、日本語能力も高い場合が多いと思います。
 ここでいうコミュニケーション能力とは初対面の人とスムーズに話ができるとか、場を明るく盛り上げるとかではないと思います。もっと単純に、仕事に際して会話のキャッチボールがきちんとできるということだと思います。実際、有能な弁理士の方には、普段は朴訥とした口下手な印象なのに、仕事の話になると一を聞いて十を知る、といった具合にこちらの意図をすぐに理解して効率よく進めて下さる方も多いです。
 この人はコミュニケーション能力が高いだろうか? ということを判断するのは、特許の世界に限らず、どんな仕事をしていても必要になることです。ですから、「特許云々」ということではなく、純粋に「その人」の人柄を見る、という判断になると思います。そのことについてはあちこちで語られていることですから、今ここで私が長々と書くことでもないでしょう。

 それから、技術知識は重要になります。現在、科学技術の分野は幾つかの分野に大別されると思います。そんな中、すべての技術分野において技術知識を備えることは、一人の弁理士にできることではありません。ですから、
「依頼しようと思っている案件の技術分野に詳しいかどうか」
という意味で、弁理士が持っている技術知識を量ることが大切です。仕事を頼む前に、その技術分野について少し雑談をしてみると、技術者の方であればすぐに相手の力が推し量れるでしょう。
 あまり高い水準を求めすぎると、お眼鏡にかなう弁理士は見つからなくなってしまいますが、かといってあまり何も知らない人と仕事をすると、本題に入る前に技術分野の概要説明だけで時間がかかってしまいます。また、同じ弁理士と長く付き合うと、徐々に技術知識が増えていくので、次第に説明が楽になっていきます。その意味では、あまりしょっちゅう弁理士を変えるのは良いことではないと思います。また、付き合い始めた最初のうちは、少々の我慢が必要かもしれません。
反面、随分長く一緒に仕事をしているのに、いつまでたっても技術内容の理解が全く深まらない弁理士がいれば、その人は少し問題がある弁理士ではないかとみるべきでしょう。

 その他の重要な能力として「論理的思考能力」というものがあります。
 ここのところは、難しい問題でもあるので、回を改めてまた書かせて戴きます。

 

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

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