特許コラム

2010年6月14日 月曜日

化学特許④

 化学特許の特徴のひとつとして分析の問題があることは、「化学特許③」のなかで書かせて戴きました。
 今回は、化学特許について特に企業経営にメリットを生む可能性が高い特許について書かせて戴きます。それは、「化合物特許」です。更に申し上げるなら、
「分析が簡単にできるような化合物の化合物特許が取れると、非常にメリットが大きい場合がある」
ということです。
 いい技術について化合物特許が取得できれば、特許が切れるまでの期間、企業経営を潤してくれる場合があります。

 化学の特許において、色々なことがうまくいかなかったり、難しくなったりする理由として、「侵害を突き止めるのが難しい」ということがあります。このことは、「化学特許③」のなかで書かせて戴きました。しかし、反対に「侵害を突き止めることが容易」になるような特許を化学の分野で取得できてしまうと、その場合は非常に強い武器になる可能性を秘めています。

 いくら他社の工場のなかを見られないとしても、営業パンフレットまでも同業他社に見せないようにすることは不可能でしょう。営業パンフレットにどのような化合物であるか、一切書けないということになれば営業上かなり苦しいことになってしまいます。
 また、顧客企業が露骨な特許侵害の危険を冒してまで侵害品を使うか、というと、なかなかそうはなりません。普通の会社であれば、まず「侵害品は使わない」という姿勢になるでしょう。化学の分野ですと、ほとんどが顧客は一般消費者ではなく会社になりますから、侵害品を使うことへの抵抗は非常に強いです。

 さらには、「化合物」で特許が取れているわけですから、最初に開発したときと別の用途に使用できることが後で明らかになった場合でも、最初の特許で幅広く守れる可能性があります。例えば、最初、医薬品として販売していた化合物が、後でプラスチック添加材としても使用できる、ということが分かった時も、化合物特許で守れる可能性が出てきます。
 そして、化合物特許の場合は、「同等の物性をもつ製品を他の化合物で得ることがどうしてもできない」というケースもよくあります。そういったケースであれば、特許を回避した別の競合品を市場に出すことが困難になります。

 実際、私もこれまでの経験のなかで、非常に企業経営に役立っている特許だ、と感じた件は、化合物特許であることが多かったように思います。大抵の企業は、強い化合物特許が成立していると、その特許については戦うよりも特許が切れるのを待つ、という姿勢になっているように思います。

 このような化合物特許ではありますが、「強い化合物特許」が取れるときというのは、研究成果としての技術に特徴があって、誰がみても「いい技術だ」と感じるようなものであることが多いようにも思います。このような「いい技術」は、きっと多くの人の努力と苦労の上に成り立っているのだと思います。そのような「いい技術」が「いい特許」によって守られて、企業の経営に寄与していく、というのは、特許の理想的な形であると私は思っています。
 ですから、このような形での「いい技術」が完成したときには、きっちりとした「いい特許」を成立させることを目指すことが重要になります。せっかく「いい技術」が完成したのに、特許で失敗してしまえば、それまでの研究者の努力が水の泡になってしまいます。

 そのためには、出願時にきっちりとした明細書を作成すること、中間手続では手抜きをせずに粘れるところはどこまでも粘ることが必要になると思います。
 では、もっと具体的に、どうすればいい特許になるのか? ということは、個々の案件毎に異なるでしょうし、ここで一般的なこととして申し上げることはできません。特許のことで「一般的なこと」として何かを話すのは、実はとても危険なことで、誤解を招きやすいと私は思っております。
 もしも、このようなことについて、具体的な弊所の意見が聞きたい、というようなことがあれば、ご遠慮なくお申しつけ下さい。
お問い合わせはこちらから→http://www.yagi-tokkyo.com/inquiry/

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

2010年6月 9日 水曜日

PCT出願をされた方への注意

WIPOが、国際出願を行った方に向けて、注意喚起をされているようです。
それによると、PCTで国際公開された出願の出願人に対して、WIPOとは全く関係なく、また、PCTによる出願の手続きとは全く関係のない手数料を支払うように、との書面が送られてくるケースが発生しているようです。
実は、私も知人から、「こんなものが送られてきたのですがこれは何ですか?」と質問されて、初めてこのような警告が出ていることを知りました。そしてその知人には「お金を払う必要はありません」と伝えました。
以下に、WIPOのウェブサイトに記載されていた表を転載します。
以下のような書類が送られてきた場合は、PCT出願とは関係のない書類ということになります。
WBIP - World Bureau Intellectual Property
[PDF]
May 21, 2010
IPTD- International Patents and Trademarks Database
[PDF]
March 2, 2010
IBIP - International Bureau for Intellectual Property
[PDF]
February 3, 2010
WBIP - World Bureau Intellectual Property
[PDF]
January 8, 2010
WBIP - World Bureau Intellectual Property
[PDF]
November 11, 2009
IOPTS - International Organization for Patent & Trademark Service
[PDF]
August 11, 2009
IRTP - International Register for Trademark & Patent
[PDF]
May 7, 2009
IBFTPR Service - Register of International Patent Application
[PDF]  
May 4,2009
ODM - Patent Trademark Register
[PDF]
March 23, 2009
IPTR - International Patent and Trademark Register
[PDF]
December 19, 2008
IBIP - International Bureau for Intellectual Property
[PDF]
December 10, 2008
RIPT - Register of International Patents and Trademarks
[PDF]
August 21, 2008
IBIP - International Bureau for Intellectual Property
[PDF]
April 15, 2008
ODM - Patent Trademark Register
[PDF]
February 20, 2008
IBFTPR - International Bureau for Federated Trademark & Patent Register
[PDF]
November 21,2007
IOIP - Organization for Intellectual Property
[PDF]
August 10, 2007
ODM - Register of International Patents
[PDF]
August 2, 2007
ODM - Office Data Management
[PDF]
May 31, 2007
IOPTS - International Organization for Patent & Trademark Service
[PDF
May 31, 2007
FIPTR - Federated Institute for Patent and Trademark Registry Inc.
[PDF]  
January 9, 2007 
CPTD - Central Patent & Trademark Database
[PDF
September 22, 2006
CCIT - Commercial Center for Industrie and Trade
[PDF]
March 13, 2006
CPD - Central Patent Database
[PDF]
June 22, 2005 
Register of International Patents
[PDF]
June 28, 2004
Register of International Patent Bulletin/Registre des données bulletin europeén des brevetes
[PDF]
September 5, 2003
Institut of Commerce for Industry, Trade, Commerce/Wirtschaftsinstitut für Industrie, Handel, Handwerk AG
[PDF]
September 5, 2003 
Central Data-Register of International Patents
[PDF]
August 9, 2002 
 
それにしても、この表を見ていると、短期間でどんどんと様式や名称が違うものが出ていることが分かります。
別の業者なのかもしれないですが、同一の業者が名前を変えながら同じ手口を繰り返している可能性もあります。
従って、今後、同じような手口で振り込みを要求する別の名称の業者が出てくる可能性もあると思われます。
基本的に、PCT出願を行った後各国以降までの間、公的な官庁からこのような形で請求書が送付されてくることはありませんので、ご注意下さい。
 

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

2010年6月 7日 月曜日

化学特許③

 化学特許について、以前、
「製造方法が特徴になってしまいやすい」
ということを問題として書かせて戴きました。
 今回は、これがどういうことかについて、少し書かせて戴きます。
 化学の発明において、「できたもの」が何かが分からない場合は、案外多いです。
 ベンゼンが化学構造上六角形をしているという話にしても、目で見たときに六角形をしている、ということではありません。みかけはただの透明な液体です。それが、過去の研究と理論の積み重ねから、あの六角形が導かれたわけです。
 昔、あの六角形が明らかになっていなかった時代は、ベンゼンという化合物ができた、と言ったところで、それがどんな化合物か、化学構造式で表現することはできなかったわけです。
 そして、今、分析技術は進み、化学についての知見も随分と蓄積されました。
 だからといって、すべてのものについて厳密に化学構造式で表現できるわけではないですし、ましてや新しい技術であれば、化合物の構造を解析しているような余裕はない場合も多いです。
 表現できなかったらどうするのかというと、
(1)製造方法で説明する。
(2)物性で説明する。
の2つが考えられます。
 このうち、(2)が化学の分野でいつも問題になる「パラメータ特許」です。これは化学分野の特許の方はよくご存じの通りのものです。取り扱いが一筋縄でいかないものであり、私もあちこちでレクチャーをすると、「パラメータ特許について話をして下さい」という要望は非常に多いです。
それだけ扱いにくいもの、ということです。
 これに対して、「(1)製造方法で説明する」という方法は比較的簡単です。自分が実験した方法を自分がやったとおりに説明すれば、それで説明できたことになるからです。
 最終の構造がはっきりしなくても、「AとBとを混合して反応させてできた化合物」と書けば一応、説明したことになります。
 このような製造方法の発明であれば権利化もしやすいですし、明細書も書きやすくなります。しかし、です。
 製造方法の発明は他社の侵害の立証が非常に難しいものになります。他社の工場に入らずにどうやって製造しているか、製造方法を明らかにするのは至難の業です。
 場合によっては、特許出願をせずに秘密にしておけば邪魔されずに済んだのに、特許出願したせいで真似されてしまった、という本末転倒に陥ることもあります。
 一応お断りしますが、製造方法特許が一概に悪いわけではなくて、ものによっては製造方法の特許で目的を充分に達成できる場合もあります。それに、ライバル会社としては、製造方法特許であっても、ある種の「怖さ」を感じるので、そのまま真似をするのにはやはり抵抗があるものです。
 しかし、深く考えずに製造方法でなければ特許にならないから製造方法で、という判断で済むほど簡単な話でないということは覚えておいて戴いてもよいのではないか、と思います。
 

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

2010年6月 4日 金曜日

弁理士を探す

「弁理士ってどうやって探せばいいんですか」ということを質問されることがあります。
「それならウチの事務所と一緒に仕事をして行きましょう!!」と言いたいところですが、種々の事情(技術分野や地域の問題等)があって、必ずしも私が受けることができない場合もよくあります。
そういう場合、いつも悩んでしまいます。
実は、弁理士を探すということは簡単なようで難しいことではないかと思います。事実、「弁理士ってどうやって探せばいいんですか」と聞かれたときに、答えはしたものの、あれでよかったのだろうか? と今でも思ってしまいます。
そういう気持ちのなかではありますが、一応、どういう感覚で弁理士を探せばよいのか、少しでも参考になりそうなことを申し上げます。
 
①事務所の規模よりも、弁理士個人の能力
特許事務所の規模と弁理士の能力とは必ずしも関係しないように思います。
もちろん、大きい特許事務所は弁理士の数が多いですから、そのなかには有能な弁理士の方がおられます。反面、大手特許事務所であってもまだまだ経験不足で勉強中という弁理士もおられます。
一方、小さい特許事務所の弁理士のなかにも優秀な方はおられます。大手事務所でエース級扱いだった弁理士が独立して開業した事務所もありますし、華やかな経歴はなくてもこつこつと勉強と経験を積んでこられた立派な先生もおられます。だからといって、小さい特許事務所の弁理士の先生が全員有能というわけではないと思います。
特許の仕事は個人の能力に依る部分が非常に大きいので、事務所というよりは担当の弁理士個人を見る必要があるように思います。
優秀な弁理士は、大手事務所内にも小規模事務所内にも同じくらいの割合でおられて、優秀な方に当たる割合はどちらに出されてもあまり変わらないのではないか、というのが私の印象です。
 
②特許庁の電子図書館を利用する。
特許庁電子図書館はこちら→http://www.ipdl.inpit.go.jp/homepg.ipdl
 
特許庁電子図書館では、1年半以上前に出願された特許出願の明細書を見ることができます。
ここから、色々な情報が取れます。
出願しようと思われている分野に近い分野(で、ライバルメーカーとは絶対にならないような会社)の特許出願の明細書等を読まれてみてはいかがでしょうか。そういった会社を担当している弁理士の名前が書かれています。
その内容を読んでこの人なら、と思われたなら、その弁理士に頼んでみるのも一つの手かもしれません。
 
③実際に会う
弁理士探しの難しさは、会ったことのない弁理士に仕事を頼まないといけない、ということにもあるように思います。
それなら、とにかく弁理士に会う機会を作ってみるのも手ではないでしょうか。
弁理士会が開催する無料相談会や商工会議所等の相談窓口、技術交流会、弁理士が講師で行うセミナー、その他、色々な場所で弁理士に会う機会を作ってみるのも一つの手でしょう。
弁理士に会ってみて、「この人なら」と思える人ならその人に頼めばいいわけです。
 
④どんな弁理士がいい弁理士なのか?
結局、探すきっかけがあっても、いい弁理士を見分けることができなければ同じことですよね。
特許の仕事をしたことがない人からすれば、「この人はいい弁理士なの?」ということはなかなか判断がつかないのではないでしょうか。
そこについては、また別に改めて何か書きたいと思っています。
 
色々と書きましたが、それでも、
「ここに書いたようなやり方でいい弁理士を探すことができます! 」
と申し上げられるようなことでは全くないです。
やはり、結局行きつくのは、
「いい弁理士を探すのは結構難しい」という結論になってしまいます。

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

2010年6月 1日 火曜日

化学特許②

化学特許についての話の続きです。

化学特許の特徴として、
侵害の証明が難しい
ということを前回のブログで書かせて戴きました。

何故でしょうか。
それは、
①分析が難しい。(技術的理由)
②他社が何をやっているのかは、実際の製造現場を見なければ分からない。(企業秘密の問題)
があるように思います。

化学分析は、「何でもできる」わけではないです。特に分離という作業には限界がありますから、混合物のなかから目的の化合物のみを取り出してその物性を分析する、というのは極めて難しいことです。
そして、何とかうまくやった、と思っても、敵側からは「分析におけるこの作業はおかしい」といった文句が分析のあちこちに対してつけられてしまいます。
特許を書くときは、発明者は実験者ですから、原料が何でどのような反応をして、ということはすべて分かっています。分かっているから、特許を書くときは困りません。混合物について、この中には何が入っているんですか? と聞かれてもすらすら答えることができます。自分で混ぜて混合物を作ったわけですから。
しかし、特許が成立したときに、最終製品のみを目の前に置かれて、分析手段のみを使って、その組成物の中身を正確に分析するというのは本当に大変なことです。分野によっては、そのようなことは不可能ということもあるでしょう。

一方、他社は自分たちの製品の詳細については絶対に教えてくれません。製造現場を見ればわかることでしょうが、製造現場を同業他社に見せてくれる会社なんて、まずありません。それは、企業秘密に属することですから、教えてくれない限りは正当な手段で正確に知ることはできません。
最終製品を市場に流している会社であれば、最終製品は入手できますが、化学会社は素材メーカーであることが多いため、敵が作っている製品自体を入手できないことも頻繁にあります。

このような状況の中でどうやって他社の侵害をつかむのか。
それは極めて難しいことです。運不運もありますし、技術分野によって他社を追求しやすい分野、追及しにくい分野もあるでしょう。
ただ、結局は、日々のルーチンの仕事のなかで、どこまで「侵害になった場合」ということをイメージして作業を行うかということしか対応策はないように思います。
もちろん、力を入れてきちんとした対応をしていても、結果として他社を追及できなくなってしまう場合も多々あります。しかし、個々の案件ではなく全体としてみれば、「生きた特許」を獲得する割合は「侵害になった場合」をイメージすることできっと高くなるはずです。

では、「侵害になった場合」をイメージするというのはどういうことなのか? どうすればいいのか?

それはまた難しい問題です。そこまでの話を一気に書くことは難しいので、そのあたりはまた次の機会に。


投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

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