特許コラム

2011年2月28日 月曜日

「精神科医は腹の底で何を考えているか」

 最近読んだ本の話です。
「精神科医は腹の底で何を考えているか」(春日武彦著 幻冬舎新書)です。2009年1月に発行されて、第六版まで行っているということは、かなり売れたということなのでしょう。
 
 最初私がこの本を手に取ったとき思ったのは、
「クセのありそうな本」
ということでした。
 タイトルもそうだし、それに加えて表紙の折り返しのところの著者の写真からそれを強く感じました。著者の写真の顔は普通の顔なのですが、その表情がなんとも「クセのありそうな人」という印象です。
 そして、立ち読みした「はしがき」の内容もすでにクセの強いものでした。
 で、その「クセの強さ」に惹かれて、読んでみようと買ったのでした。
 
 そして読んだ感想はということになるのですが。
 こういう本について何か書くのは難しいと思います。
 特に後半、第六章、第七章あたりになると、「何をもって治癒とするか」、「幸福とは何か」という話になるので、本ブログのような「ビジネスに関すること」を主眼としたブログでは特に書きにくいです。
 内容が「哲学」的な方向に行くのは、やはり精神科医にとっては必然なのかもしれない、と思うし、実は私にとってはその辺りが一番面白かったのですが、そこに踏み込むと、話がまとまらなくなるだけなので、本ブログでは、もう少し別のところを。
 
 私は「弁理士」という立場で、特許について相談に来られた方にアドバイスをしたり、質問に答えたり、実際の手続きを行ったりという仕事をしています。
 その意味では、体調について問題を抱えた方の相談に答える、「医師」という仕事も共通した部分もあります。但し、私はあくまでも「ビジネス」という観点の話をするのですが、医師は「健康」という立場から話をするので、そこの違いはあります。
 
 しかし、「専門家」として「クライアント」接するという点では、ちょっと共通するものを感じてしまいました。もしも私が
「弁理士は腹の底で何を考えているのか」
という本を書くなら、似たような内容になる部分は結構あるな、と思いました。特に、第一章~第五章あたり。ま、これは「私」の印象なので、世の弁理士の皆さんが、そう感じるかどうかは別問題として。
 
 それがどんなこと? と聞かれると、それは一言では説明できません。この本、軽く書かれているように見えて、中身が濃いので、要約しにくいということがあります。
 
 例えば、「治療は医師と患者の共同作業」というサブタイトルの章があります。このへんも、「特許取得は、弁理士とクライアントの共同作業」とそのまま言い換えられます。
 そして、その協力関係がなかなかうまく成立しない場合もある、ということなどは、本当に弁理士も同じだなと感じます。
 具体的な話になると違うこともあるのですが、しかし、弁理士とクライアントとの関係も、クライアント企業において、「結構ヤバイ」状態なのにそのことを理解してくれないこと、等もあるわけで、共通点を感じたりもしていました。
 
 こういう、自分の仕事と関係がなさそうな人の「考えていること」が自分が仕事で思っていることと似ている、というのは面白いな、と思いました。

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2011年2月25日 金曜日

特許事務所の経営

 昨日、税理士さんと昨年の確定申告の書類作成を行いました。
 これをやっていると、一年に一度、経営状況を確認しているという気分になります。
 
 でも、特許事務所の経営がどんなものか、ということはあまり語られることはがないですね。
 それが分からないから独立を「怖いこと」と思っている人も多いような気がしますが。
 
 当然のことですが、弁理士が独立すると「経営」という問題がのしかかってきます。それは弁理士に限らず、どんな仕事であれ、独立すれば「与えられた仕事をやっていればいい」という状況ではなくなります。
 独立した資格職と無職の違いは、「仕事があるかどうか」の一点のみです。独立しても仕事がなければ無職と同じです。だから、最初に「経営」のなかで考えることは「どうやって仕事を手に入れるか」という一点に絞られるわけです。(仕事が増えてくると、そこに「どうやって仕事を回すのか」という次の点がでてくるわけですが)
 
どれほど弁理士として優秀で、明細書を書くことに関して素晴らしい能力を持っていたとしても、それと特許事務所の経営は何の関係もありません。仕事がなければ、能力があっても「無職」にすぎないわけです。
 
で、私の場合はこの三年間、どうだったんだろうか、と思い出してみると。
 
なんかよく分からないんですよね。細々と事務所は継続しているのですが、
「仕事を取るためにどんな作戦を立てたのか」
ということを考えても、作戦というほどの作戦はなかったように思います。
 
ただ、ありきたりですが「人との縁」が一番大事なのかもしれない、と思います。それも
「この人に顔を売っておいたら、仕事がもらえるんじゃないか」
という色気を出した付き合いよりも、
「この人とのつながりから仕事が来るなんて思ってもいなかった」
という付き合いが大事、と思います。ウチの場合もそういうつながりからの仕事はそれなりに多いです。
 
そういう意味では、独立して「縁」ということを、実感として感じるようになったと思います。そういう「意外な縁」が、最近たまに「仕事が楽しい」と思うことがある一因なのかもしれません。
 
それと、事務所の経営の「調子が悪い時」にどこまで平静でいられるか、ということもあるような気がします。そこのところ、私も「まだまだ」という気がしますが。

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2011年2月23日 水曜日

傲慢な弁理士

 ブログをやっていると、アクセス解析を見ることで、「どんな検索ワードで本ブログに到達したのか」が分かります。
 
 で、それを見るのが最近の楽しみの一つなのですが、最近、
「弁理士 傲慢」
でウチに来たという人がいるのを見て、ちょっとへこみました。
 
 いや、別にこの人が私のことを傲慢だ、と思って検索してウチのブログにたどり着いたわけでないことくらい、分かっています。
 しかし、どういう理由があったにせよ、「弁理士を傲慢だ」と感じるようなことがあったか、あるいは、そういう噂を聞いたから検索をされたのでしょう。
 
 弁理士のほとんどは、弁理士試験に合格してなった方です。そして、合格者発表のときに出身大学のランキングなども発表されますが、いわゆる「高偏差値大学」の出身者の割合が高いです。そういう「勉強ができる」という自意識のせいで「傲慢」になってしまう方がおられるのは、仕方がないことかもしれません。
 
 弁理士という仕事について、私がいつも思っていることは、
「弁理士はプレーヤーではなく、プレーヤーをサポートするスタッフみたいなものだ」
ということです。
 弁理士の仕事はあくまでも「研究者」が「新しい発明」をしてこそ、のものです。弁理士だけいたところで、何も世の中の役には立ちません。
 
 例えば、私たち弁理士は野球選手やサッカー選手のようなプレーヤーではなく、それをサポートするトレーナーとか栄養士とか、そういう立場の人間なのではないか、と思っています。
 こう書いたからといって、別に弁理士という仕事を卑下するつもりは全くありません。ただ、事実として弁理士という仕事がそういうものだ、と思っているだけです。
 
「プレーヤーをサポートするスタッフ」
が一番やってはいけないことというのは、「プレーヤー」がいい気分でプレーすることを邪魔するようなことではないか、と思います。
 
 でもここのところは難しいと思います。なんだかんだいって、誰でも「自意識」というものはありますし、「自分は偉い」というアピールをしたくなってしまいがち、というのはありがちな話です。
それが、「一流大学」を卒業して、「難関資格試験に合格した」という人であればなおさらです。
 
とはいうものの……。
ここのところを考え始めると、私も色々と止まらなくなってくるので、このあたりまでとしますが。いずれにしても、難しい問題ではあると思います。

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2011年2月18日 金曜日

特許庁、特許ライセンスの新制度創設へ

「経済産業省・特許庁は16日に開いた産業構造審議会(経済産業相の諮問機関)の知的財産政策部会(野間口有部会長=産業技術総合研究所理事長)で、特許のライセンスを受けた事業を保護する新制度の創設について了解を得た。今国会で特許法の改正を目指す。また特許審査手数料の引き下げや、中小・ベンチャー企業に対する減免制度の拡充も確認した。
 
 特許権を権利者が第三者に売却した場合、特許の通常実施権のライセンスを受けている企業は、新たな権利者から差し止め請求を受ける危険性がある。現行制度でこれに対抗することは実務上難しいため、新たに「当然対抗制度」を導入する。
 具体的には従来のライセンスの存在を立証すれば、新たな特許権者に対抗できるようにする。これにより企業などの事業の安定性、継続性がおびやかされることがなくなるという。」(2011年2月17日 日刊工業新聞)
 
 
ということで、法改正情報です。
 
特許のライセンスは契約ですから、色々と揉め事の起こりやすいところです。
契約を作る時に、「特許権者が倒産した場合どうなるんだ」とか「特許権者が特許権を売却したときどうなるんだ」とか、考えるべきことはたくさんあります。
 
そういう意味では、この改正で追加されるらしき制度は、認めてしかるべきもの、という気がするので、妥当な改正内容といえるのではないでしょうか。
 
読んでいると「従来のライセンスの存在を立証すれば」という条件が入っているところに注意です。
基本的には契約書をきちんと交わしておけば問題がないということなのでしょう。また、特許庁への登録をするのも一つの手でしょう。
 
今はライセンスというと、きちんと契約書を交わすのが当然になっている、とは思いますが、そこをいい加減にしていて、口約束で実施させてもらっていた、ということになれば、ここの条項での保護が受けられなくなることがあります。
きちんと契約書を作成しておくことが重要となります。
 
また、特許審査手数料の引き下げや、中小・ベンチャー企業に対する減免制度の拡充については、色々な人から「どうなっていますか」と聞かれるのですが、まだ内容は公表されていないということですね。今回の改正で、中小・ベンチャーの方にとって非常に興味があるのはここのところだ、と思いますが、私としても少しでも使いやすい特許制度になっていればいいな、と思います。
 
それから、特許庁の無料先行文献調査の制度は今年度で終了なんですね。こちらの制度は非常にいい制度だと思っていたので、終わるのは残念です。予算の問題もあるでしょうし、止むを得ないのかもしれませんが、もしも可能であるなら、また復活させて欲しいなと思います。

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2011年2月16日 水曜日

仕事の楽しみ

 私が特許の仕事をするようになって、十五年くらいになります。
 で、それくらい経った最近になって、
「特許の仕事が楽しい」
と感じることが、時々はあるようになりました。本当に「たまに」ですが。
 
 言い換えると、最近になるまで本当の意味で「特許の仕事が楽しい」と感じたことは、ほぼなかったということです。
 
 それでも、企業時代、研究から知財に異動したばかりの頃は楽しいと感じることも結構ありました。しかし、それは、「今まで知らなかった世界」に入った物珍しさや、それまで知らなかった知識が増えていく楽しさだったように思います。
 それに、下っ端で責任もあまりない状態ですから、プレッシャーもほとんどなく、気ままに仕事ができるという有難さもありました。
 面倒くさいことになると上司が出てきて決めてくれたり、責任を取ったりしてくれる、という甘えられる状況でもありました。
 
 その頃の「楽しい」というのは、本当の意味で辛いことを免除されているから「楽しかった」だけで、真の意味での「楽しい」という状態ではなかった、と今振り返ると、思います。当時の自分は、それなりに頑張っているつもりだったし、「辛い」こともたくさんあると思っていたのですが。
 
 しかし、その後、弁理士試験に合格し、特許事務所に転職した辺りから真に「辛い」時期が始まりました。
 私の場合は、経験者で弁理士資格保有での転職でしたので、特許事務所では最初からある程度上のポジションからのスタートでした。そこで、「責任」を持って仕事をするという立場に初めてなったわけです。
 「責任」を背負って仕事をするのは、辛いことでした。弁理士は「代理人」ですから、自分の失敗でクライアントに迷惑をかけてはいけない、と思うと辛いと感じるばかりで、「楽しい」などと思うことはありませんでした。
 
 要するに「余裕」がなかったわけです。自分の能力にも自信がなく、日々の仕事で失敗しないように、できるだけのことをやらなければ、という気持ちが強すぎて、本当に辛い日々でした。
 それに特許事務所という組織に属していると、組織の中で自分の役割を果たす、ということについて、プレッシャーも感じていました。
 
 で、最近になってなぜ「楽しい」と感じる機会が「ごくたまに」生まれるようになったのだろう、と考えると、結局、ちょっとは余裕ができてきたということかもしれません。何となく、昔に比べて肩の力が抜けてきた、という気もします。
 それから、そんな感じで積み重ねた十五年間の経験のおかげで、相談されたことに対して少しはマシなアドバイスができるようになってきたような気もします。
そして、「自分のアドバイスが少しは誰かの役に立ったのかもしれない」と思う瞬間があると、それは大変「楽しい」ことです。
 
 なんで急にこんなことを書いたのかというと、ブログのアクセス解析を見ていると、「特許の仕事」というものに迷いを感じている方というのは多いのだな、という気がしたからです。
 
 私だって、この十五年間、ずっと迷うことばかりでした。これまでの知財経験のなかで、純粋に「仕事が楽しい」と感じられるような瞬間なんて、ほとんどありませんでした。だから、今迷っている方の気持ちも分からないことはないのです。
 でもそういう中で耐えることで、少しずつ自分の居場所ができてきて、本当に時たまとはいえ、「楽しい」と感じる瞬間ができてきた、ということです。
 
 今「辛い」と感じておられる方が、耐えて頑張っているうちに私と同じように将来「楽しいときも少しはある」と思えるようになるのかどうかは分かりません。しかし、少なくとも私はこうだった、と書くことで、今「辛い」方のちょっとした励みにでもなれば、と思ってこういうことを書きました。
 
 それと、少しだけとはいえ「仕事が楽しい」と感じられるようになってきたことが嬉しかったので、それを書き留めておこう、という「日記感覚」も半分です。
 願わくは、少しでも「仕事が楽しい」と感じられるような状態が長く続けばいいな、と思っています。

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

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