特許コラム

2012年5月 8日 火曜日

「銃・病原菌・鉄」

 大変ご無沙汰しております。色々と忙しくしていることもあり、ネタ探しのアンテナも鈍りがちです。ブログを書く時間がない、というよりもネタ探しの時間がないというほうが正確かもしれません。
 
 という前置きはさておき、最近読んだ本です。
「銃・病原菌・鉄」上・下(ジャレド・ダイヤモンド著 倉骨彰訳 原著1997年 草思社文庫)をようやく読み終わりました。
 文庫ではなくハードカバーで出ているのを見て、「面白そう」と思いながら何となく手を出せず、文庫化されたのを見つけてすぐに買ったのですが、読み切るまでに2カ月くらいかかってしまいました。
 
 といって、非常に読みにくいというわけではなく、むしろアカデミックな本のわりには読みやすいのではないでしょうか。翻訳もすみずみまで神経が行き届いていて、読みやすいのに軽すぎることもない良訳です。よく売れた本であるという話ですが、それも納得の一冊です。
 内容はというと、技術や文化・言語等の伝播、伝染病等の拡散等を分析することで、なぜ西欧文明が世界を圧倒することとなったのか、を論理的に解明していこうとする歴史に関する本です。
 
 こんな壮大なテーマであるし、400頁×2冊というボリュームの本で書かれていることをこんなブログで簡単に説明するようなものでもないので、内容についてはこれ以上書けません。
 ただ、感情や思いこみといったものを極力排して、現在明らかになっている学問的情報のみを頼りに文明の伝播を論理的に解釈していく部分は、非常に面白いものでありました。
 
 で、この本のなかでの第13章のタイトルが「発明は必要の母である」となっています。これは「ほほう」と思ってしまいました。この本を全部読む時間はない、という知財関係の方はこの章だけでも読まれてもよいのではないか、と思いました。
 
 一般に「必要は発明の母」と書かれるところですが、本書では「発明は必要の母」と書かれています。一文を引用しましょうか。
 「ところが実際の発明の多くは、人間の好奇心の産物であって、何か特定のものを作りだそうとして生みだされたわけではない。発明をどのように応用するかは、発明がなされたあとに考えだされている。」(下巻 第62頁)
 ここのところは、私も手を打ってしまいました。まさにその通り、と思いました。
 
 更には、
「また、ワットやエジソンのような、非凡な天才の役割が誇張されすぎている。出願者に特許の斬新さの証明を要求する特許法も、発明は非凡な天才によってなされるという見方を助長している。」(下巻 第65頁)
という一文もあります。
 まあ、著者は特許の専門家ではないので、特許について書かれた文章については完全に正確でない面もありますが、とにかく書いてあることは正しいと思います。
 
 弁理士として仕事をしていると、たまに「非常に面白い」けど「これは何の役に立つんだ?」と思うような技術を見ることがあります。また、化学系ですと発明者から新規の素材について「特殊な物性が出るけど、これが何の役に立つのかが分からない」という説明を受けることがあります。
 また、一見すると先の出願に比べると「ちょっとした違い」にすぎないように見えることが重要であることも多々あります。そういったものを見たときに感じたことと、この本のこの章で記載されていたことが、重なる気がして非常に興味深かったです。
 
 そういう意味ではこういった「世界の歴史の大きな流れ」を説明する本のなかで「発明」とか「特許」について考えさせられる材料が含まれている、というのも面白いことだと思いました。
 また、研究等を実際にされたことのない方で、仕事をする上で研究に関わることがあった場合はこのあたりの文章を軽くでもよいので心に留められておくとよいのではないでしょうか。

投稿者 八木国際特許事務所 | 記事URL

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