特許コラム
2010年12月16日 木曜日
企業知財と特許事務所のつきあい
以前、
というブログを書きましたが、この内容に関連したことです。
ずいぶん昔のことになりますが、講習会のついた知財関連の交流会に参加したとき、講習会の講師の方が特許事務所の弁理士をこき下ろしているのを聞いたことがあります。
具体的には「レベルが低い」「知識が少ない」「ちゃんとやってくれない」といったようなことをおっしゃっていたような気がします。その講師の方は、某企業の特許部に勤めておられる方で、弁理士の資格もお持ちの方でした。
そんなに固い場でもなかったので、社内飲み会の延長のような気持ちでつい言ってしまったのだろうと思います。私も企業知財に勤めている頃だったら、軽く聞き流していた気がします。
が、その頃、私は特許事務所で勤めていた頃だったので、聞き流すことはできませんでした。
とりあえず、「講師の先生」という立場の方が、事務所の弁理士の人も大勢いる前でそんなことを言うのは、趣味のいいこととはいえません。事務所からすれば、企業知財は「お客様」ですから、反論があってもなかなか言えないですからね。言った内容が同じであっても、「特許事務所の役割や理想」というまじめな議論につなげる形でおっしゃったのであれば、悪いことではなかったと思うのですが。
提言ではない単純な特許事務所の悪口を言われても、「それなら知財の仕事は事務所に出さずすべて社内でやればどうですか?」とか、「弁理士なんですから自分で特許事務所を開いたらどうですか? そんなに強く批判されるのなら、立派な事務所を開けるんでしょう?」といった、悪趣味な嫌味しか言えません。そんなことを言っても仕方がないので、黙ってしまうしかありません。
一般的なこととしてみても、深い議論に繋がらない単なる悪口を講習会の講師が言うのは、建設的ではないでしょう。
と、ここまで批判的に書いたものの、その一方でその方がおっしゃることも分からないではないのです。
私が企業知財に勤めていた頃の別の話をしましょうか。
当時、私が勤めていた会社が懇意にしていた特許事務所があり、そこには何人かの弁理士の先生がおられました。
その事務所に勤務されている弁理士の先生(仮にA先生としましょう)のことを、会社の特許部の人(Bさんとしましょう)が非常に嫌っていました。いつも「あの人の仕事はいい加減だ。手抜きがひどい」と言っていました。私は、自分が依頼してA先生にやってもらった仕事について、ひどいと思ったことがなかったので、「そうかなぁ」という気持ちでBさんの話を聞いていました。
あるとき、Bさんが「この前A先生にやってもらった異議申立(当時は特許にも異議申立制度がありました)が、こんな書面だったんですけど、どう思いますか?」とA先生の書いた異議申立書を見せてくれたことがありました。
それを見て、私もかなり驚きました。確かにBさんが言うとおり、手抜きがひどくいい加減な書面でした。私が頼んだときに上がってくる書面とは質が大きく違っていました。
結局、A先生はかなり人を見て仕事をしていたのではないかと思います。その件があったとき、私は弁理士試験に合格した後でしたから、私に対しては気を遣っていた、ということなのでしょう。
しかし、Bさんの仕事の頼み方が悪かった可能性もあります。A先生にそのあたりを突っ込んで聞いてみたら、「それは仕方がないな」と思うような事実が出てくるのかもしれません。
いずれにしても、企業知財と特許事務所の弁理士の付き合いは簡単ではない、ということです。それがうまくできるかどうかというのは、企業知財の方にとっても特許事務所の人間にとっても、仕事の多くの部分を占める難しい問題であるように思います。
この辺も、機会があれば掘り下げてみたいと思います。
投稿者 八木国際特許事務所