特許コラム

2012年2月15日 水曜日

特許侵害で引責

 2012年2月14日の日本経済新聞朝刊の記事です。
 
「ミヨシ油脂社長に堀尾氏
特許侵害で山田社長引責
 ミヨシ油脂は13日、山田修社長(53)と三木敏行会長(82)が引責辞任し、新社長に堀尾容造執行役員(59)、新会長に新津堅取締役常務執行役員(64)が就任すると発表した。3月28日に開く株主総会後の取締役会で正式に決める。東ソーから重金属固定化処理剤の特許侵害で訴えられていた件で、敗訴が決まり、経営責任を明確化する」
 
 ううむ、と思いました。
 特許訴訟に負けた責任を取って社長引責というのは、しばらく前までではなかなか考えられなかったことのような気がします。
 もちろん、今回のように損害賠償額が18億という巨額のものになったケースがこれまでなかったから、ということがあるのでしょうが。
 18億円も負けると、おそらく誰か責任を取らされるだろうなとは思っていましたが、社長会長が辞任というところになったわけです。ま、色々社内の裏事情もあるでしょうから、本当のところは分からないことだらけですが。
 
 しかし、いずれにしても経営者はある程度特許訴訟については考えなければならなくなるということですね。
 少なくとも高額の損害賠償額が発生するような事件の被告にならないよう、慎重な対応が必要になるのでしょう。
 これが世の中にとっていいことかどうかは分からないのですが、現状、特許訴訟で高額の損害賠償が発生するおそれがある、ということは考慮に入れた上で、特許対応を考えなければならなくなってしまった、ということです。
 
 ここのところ、企業経営にとって色々と重要な問題であると思いますので、意識を高く持たれることも重要ではないかと思います。

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2012年2月 4日 土曜日

「緋色の研究」

 「緋色の研究」(コナン・ドイル)を読みました。シャーロック・ホームズ初登場作品です。
 
 推理小説マニアだなどと言っていても、こういう小説を案外読んでいないんですよね。いや、小学生のときに子供向けに書き直したホームズもので読んだから、大体のストーリーは知っていました。それだけに、改めてきちんと読み直そうという気にもなれませんでした。
 しかし、最近なぜか急にホームズものが読みたくなってきて、ようやく読むことができました。
 
 いや、面白かったです。それが最初の素直な感想です。古びていて時代を感じさせるのですが(なにしろ1887年の作品です)、逆に最近の小説には絶対にないような色々な要素が含まれていて、「時代小説」を読んでいる新鮮さです。
 ロンドンも車のない馬車の時代だし、後半で出てくるアメリカの描写は現代のアメリカとは何もかもが違った「未開の地」といった印象です。科学的捜査もまだまだであり、組織だった捜査なども不十分である反面、色々なことがおおらかで、今だったら大問題になるようなことが平然と行われていたりもします。
 
 それにしても、この作品、「推理小説」として謎解きとか意外な犯人を楽しむというよりは、シャーロック・ホームズという特異な人をワトソン博士が興味深げに観察している、「キャラクター小説」なんですね。そこのところが非常に面白いです。
 現代だったら、あれくらいの単純な謎解きだったら「ありきたり」といわれてしまうでしょう。それなのに、現代まで読まれているというのは、「キャラクター小説」の部分が面白いからだろうなと思いました。
 
 それでいて、現代人からみても共感できるような色々な要素も含まれています。論理性について語られた種々の言葉も含蓄があり味があるな、とも思います。
 
 しかし、ホームズの推理って理屈つけていますけど、結局「勘」なんですね。
 とある推理をした後、ワトソンに
「いったい、どうしてああいう推理ができたのですか」
と問われたときの答えが、
「ぼくには、わかるのはなんでもなかったが、説明のほうがかえってむずかしい。君でも、事実にはまちがいないことはわかっていても、二と二を足したら四になる理由を説明しろといわれたら、ちょっとこまるだろう」
というものです(阿部知二訳 創元推理文庫 35頁)。
 この言葉って、要は「勘だ」と言っているように感じます。でも、論理性って結局そういうものだと思うんですよね。論理から考えるというよりは、先に結論があって、後から論理をくっつけるという。
 小説の本筋の推理も結局は、「勘」にもとづいた結論がさきにあって、後で理屈をつけているという感じがしますし。
 
 その辺の感じも含めて、非常に面白いと思いました。機会があればシリーズを読み進めてみたいとも思います。

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2012年1月28日 土曜日

知財高裁大合議の判決


 知財高裁大合議での判決として、医薬品関連の事件についての判決が出ましたね。内容は新聞記事を参照願います。
 
 
 この事件、「大合議に行った」という話を聞いたときに地裁判決をざっと読んだのですが、どうみても地裁判断が妥当、という印象を抱いていたものでした。
 
 言ってみれば、「請求の範囲に製造方法が書かれている」のに、「製造方法が違っても物が同じなら権利侵害」という特許権者が主張していた、というものです。
 
 こちらに、知財高裁が本判決の要旨を公開しています。
 
 基本的に妥当な判断だとは思いますし、私が解説を加えるようなことは特にないと思います。
判決の結論よりも、ここで「真正プロダクト・バイ・クレーム」と「不真正プロダクト・バイ・クレーム」とに分けて議論しているところは、化学系弁理士であれば内容をチェックしておくべきなのだろうと思います。今後、類似事件が発生した場合の指針とすべく大合議での判断がなされたということなのでしょう。
 
 化学系の特許出願においては、無意識で「プロダクト・バイ・プロセス」形式で記載してしまうことは非常に多いです。私は、できるだけ意識して「プロダクト・バイ・プロセス」を避けるようにしています。しかし、それでもゼロにはならないです。
 
 発明者はあくまでも、「自分がやったこと」として発明を認識しているので、「方法」という観点から発明を説明されることになります。それをそのまま書くとどうしても「プロダクト・バイ・プロセス」形式になりがちです。
 それは悪いことではないと思うのですが、今回の事件で「不真正プロダクト・バイ・クレーム」という不名誉な称号を与えられてしまうのは、あまり心地よいものではないです。
 読んだ印象では、「不真正プロダクト・バイ・クレーム」だから無効になるとか権利侵害は認めない、というようなことではないようです。しかし、この「不真正プロダクト・バイ・クレーム」に該当する化学特許は極めて多いはずです。それだけに、「不真正」という悪い印象を与える言葉は避けて欲しかった・・・とも思います。
 皆さんも、「不真正プロダクト・バイ・クレーム」と言われたとしても、それ自体が悪いことではない、ということだけでも認識していただければ、と思います。
 
 私もこの判決は公開されればきちんと目を通しておこうと思います。本ブログでネタにするかどうかは別なのですが。

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2012年1月20日 金曜日

イーストマンコダックの件について

 最近、イーストマンコダックの特許売却の動きがたまに新聞に載っていますね。破産法申請して、最後っ屁をかましている、という感じです。
 
 知財に関する事件が新聞に多く掲載されるなか、これはちょっと珍しいケースかもしれませんね。特許権を「処分可能な財産権」とみて、これを処分することで金銭を確保する、というのは、少なくとも報道されたニュースとしてはあまり見たことがないように思います。
 それだけ、現在のイーストマンコダックは苦しい、ということなのでしょう。写真用フィルムの市場があっという間にここまで減少してしまえば、苦しいのも仕方がないという気はします。
 
 このような大きな話をどう捉えるかは私にとって専門外の問題ですが、一つ言えるなら特許を取得する一つの目的として「技術を財産権として確定させる」ということはあるのかもしれないですね。
 「自社の独自の技術を売却する」ということを考えたとき、それは「特許を売る」ということで捉えるしかない、ともいえるわけです。
 そういう意味では「技術」を「売却可能な資産」に変える上で「特許を取る」というのは一つの重要なポイントになるのかもしれません。
 
 私自身、
「企業が特許を取得する意味はどこにあるのだろう」
ということについては色々と悩んでいた面があります。
 会社によっては侵害されたところで、訴訟を起こす金も人手もないのに、特許を取得してどうなるのか。ましてや、高い金を使って海外特許まで取得して、その先に何があるのか、ということについて、私のなかでは今一つ明確な答えが見つからないように感じていました。
 
 そういう観点から今回の事件を見ていくなら、「形のない技術を形のある財産に変える」という目的が特許を取得する重要な目的になってくるのかもしれません。
 

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2012年1月15日 日曜日

年末の判決

 最近、ブログの更新をサボっているうちに、東ソーvsミヨシ油脂の知財高裁判決が出ていたんですね。
 
 結果は被告敗訴で損害賠償額も増額されたということです。知財高裁がこのような判断をしたということは、現状では、やはり特許侵害者に厳しい判断を下すということが一つの流れになりそうな気配ですね。
 
 判決の内容云々について今回は書きません。基本的には侵害との結論がでたわけですから、地裁判決に比べて大きく判断基準が変わったわけではないでしょう。問題は損害賠償額の算出基準にあるわけですが、「逸失利益」の内容について、地裁段階でも十分に検討できていないので、高裁の判断基準についてはどうみるか、私も今のところ特に意見はありません。
 
 しかし、これまでこのような高額の損害賠償が出ていなかったところに、地裁が10億円以上の判断を行い、知財高裁もこの高額の損害賠償額を増額したということですから、今後、「プロパテント」の方向に進めようということなのかもしれません。
 それがいいことかどうかはひとまず置くとして、いろいろなことの状況が変わっていくのかもしれない、ということは気に留められたほうがいいかもしれません。

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