特許コラム
2011年8月27日 土曜日
発明とは難しいものなのか?
サムスンとアップルが訴訟をしていますが、そのなかでサムスン側が「2001年宇宙の旅」の映像を証拠として提出した、という話がネットニュースで出ていました。
その扱いが「キワモノ」ニュース扱いなのに少し驚きました。「ネタ扱い」というか。「特許訴訟なのにそんなものを!?」みたいな感じで。
でも、証拠として提出したのは意匠がらみの話ですからね。あのタブレットのデザインが昔から知られたものであって、アップルが新たに作り出したものではない、ということを示す証拠なら、そりゃあ映画の映像だって普通に証拠になるでしょう。
そう考えると、そんなキワモノニュース扱いにするようなことでもないと思うのですが……。
私は、(何度か本ブログでも書いたように)サラリーマン時代は化粧品特許の仕事をしていました。化粧品特許で情報提供をするときに提出する文献が女性雑誌のコスメ関連記事、ということなんてのも、何回かありました。それを思うと、SF映画の映像を、今回のような意匠ではなく、特許の先行文献として提出する可能性でさえゼロではないですよ。
なんとなく、あまり研究とか特許に関わったことのない人は、技術や特許というのは「難しいもの」「自分たちに理解できないような高度なもの」というふうに考えがちですよね。
でも、そういう考え方は捨てたほうがいいんじゃないかと思います。
誰でも理解できるような単純なアイディアが商品になっているものなんて、世の中に沢山あるでしょう? 以前、本ブログで取り上げた花王vsヘンケルの訴訟にからむ染毛剤特許なんて、専門家でなくても思いつきそうな、単純なアイディアです。(洗顔フォームで使うような泡洗顔容器に染毛剤を入れる、というだけのことですから。もっとも、そういうものほど逆に盲点になりやすいとも言えますが)
あの技術だって、花王という特許に関して厳しい考え方をする会社だから、特許出願して早期権利化をして訴訟も提起して、ということをしました。
でも、もしもあれを思いついた会社が特許のことを分かっていなくて、「特許というのは難しくて高度なものを出願するもの」と思っていたらどうなったでしょうか。
場合によっては、「こんなもの、誰でも思いつくことだし特許にならないだろう」と思って、特許出願もせず、短期間で他社に真似されて、大量の商品群のなかに埋もれてしまう、という経緯をたどったことでしょう。
そのことについて、「特許を出していたほうがよかったのに……」という助言をしてくれる人が誰もいなければ、「自分たちが失敗をした」ということさえも気がつかないでしょう。
私がサラリーマンで研究者の頃に言われたこととして、
「技術的に簡単で誰でも思いつきそうに見える技術の特許のほうが重要だ。高度な技術はほんとうに商売になるかどうかも分からないし、技術が難しいから他社も簡単に真似できない。でも、簡単な技術はすぐに実現しやすいし、実現するとすぐ他社に真似される。だから、「技術的に簡単そうに見える特許」をバカにしてはいけない」
との言葉を、今でも覚えています。
そういったもろもろのことを思い出していると、サムスンが「2001年宇宙の旅」の映像を証拠として提出した、ということを、「キワモノニュース」扱いなんかしては駄目ですよ、と改めて思います。
投稿者 八木国際特許事務所