特許コラム

2011年7月30日 土曜日

医薬品巡る特許訴訟、大合議で審理へ

 7月26日、日本経済新聞の記事です。
 
 
 法律解釈の重要な判断に関する事項について地財高裁が行う大合議審理ですが、協和発酵キリンが被告となった医薬品特許の事件が大合議に入るそうですね。
 
 ほう、と思ったので、地裁判決をぱらぱらと繰ってみました。詳細には読んでいませんので、誤りがあればご指摘下さい。
 
 対象となる特許の請求項1は以下です。
「次の段階:
a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し、
b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し、
c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し、
d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え、そして
e)プラバスタチンナトリウム単離すること、
を含んで成る方法によって製造される、プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり、エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム」(註:登録時の請求項1です)
 
 判決文によると、その後、訂正審判がなされているようなのですが、そこを書き換えるのも面倒なので、興味のある方は判決文を当たってください。
 
 一見して分かるように、この請求項は「方法」によって特定された「物」の発明です。
「a)~e)を含んで成る方法……」
とはっきり書いていますからね。
 
 こういうものを「プロダクト・バイ・プロセス特許」(日本語で言うと「方法的記載を含む物の特許」とでもなるでしょうか)といい、化学特許の世界では一つのポイントになるところです。
 
 原告の主張は、このような発明の場合、
「最終物が同じなら、製造方法が違っていても特許の範囲内」
というものです。要するに、製造工程においてa)~e)の工程を完全に満たしていなくても、販売しているものが同じなら権利範囲内、という主張です。
特許のことを知らない方からすると、「何でそんな主張ができるの?」と思ってしまうのではないでしょうか。
 
 私は、正直、この事件での原告の主張はちょっと苦しいな、ということを思います。確かに「プロダクト・バイ・プロセス特許」において、製造方法が異なっても権利範囲とみなすべき場合はあります。
 でも、この特許の場合はそうじゃないだろう、という気がしてしまいます。おそらく、地財高裁もこの事件を材料に、「プロダクト・バイ・プロセス特許」の解釈について何か基準を出すつもりなのだろうな、と思います。
 このあたりはある程度、判断の基準ができている部分ではあるので、そこから大きく逸脱することはないと思いますが、高裁判決には注目したいと思います。
 
 で、ついでに申し上げると。
 化学系の分野において、発明者の方が明細書を書くと、無意識のうちにプロダクト・バイ・プロセスの発明として請求項を書いてしまう傾向があるように思います。
 実際に研究をされている方からすれば、「自分がやったこと」を「方法」として捉えてしまいがちなのは、自然なことです。
 
 実際、私が発明者の方が書かれた請求項案を見て、最初に手を加える場所は、大抵、「方法的記載をできるだけ「物」の請求項から排除する」ことです。
 方法的記載は、いろいろと解釈はありますが、化学の物クレームにおいては、「やらなくて済むならやらないほうがいい」記載であるのは事実です。このあたりも、機会があれば本ブログで少し触れさせていただきます。


投稿者 八木国際特許事務所

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