特許コラム

2011年6月14日 火曜日

科学知識について

今週の週刊東洋経済(2011年6月18日号)は、「身を守る科学知識」を特集しています。
 これはなかなか面白い特集記事だと思います。科学技術とあまり関係のない仕事をされている方も、関係のある仕事をされている方も、「科学技術と世の中の関わり」ということを知る意味では、参考になるのではないでしょうか。
 
 興味深いと思った言葉としては、大阪大学コニュニケーションデザイン・センターの平川秀幸准教授の
「市民が抱く『科学』のイメージと、本来の『科学』の姿にギャップがある。」(40頁)
という言葉を挙げたいと思います。
 
 「「科学」とは、実験や観察を通して、その背後にある一般法則や理論、因果関係を導き出すこと。そして、一般法則をまた個々の事例に応用し、新たな一般法則を導くことだ。(中略)
 ある時点で出された結論は、その時点での結論にすぎない」
「研究者の多い分野では2~3年もすればそれまで認められていた理論が一晩にして覆ることも多い」
といった言葉が解説も加えられています。
 
 あまり科学分野と触れ合うことが多くない人は、科学というのはすでに明らかにされた「絶対的な科学理論」があって、その「絶対的な科学理論」ですべてのことは説明がつく、と思っているフシがあります。
 が、現実は、少なくとも、「現在明らかになっている科学理論」で世の中のすべてのことは説明がつく、なんて状態では全くありません。そこまで科学は万能ではありません。「科学の常識」なんてものは、それに反する実験結果が出れば覆るような、脆弱なものです。
 
 特に化学の分野等では、「実験結果」が最初にあって、その「実験結果」を説明するために一応の「理論」を作るというのが思考パターンです。まず理論ありきで実験結果を理論の鋳型に無理やり押し込むようなやり方は、化学の研究には合いません。
 
 もしも今、特許の仕事をしておられる方でこのような観点を持たず、「科学技術は絶対的なもの」と信じておられる方がいたら、ちょっとそこは考え方を変えたほうがいいですよ。特に「文系出身の弁理士の方」が特許の仕事をするのは難しい、と言われてしまうのはこのあたりの感覚がずれているからではないか、ということを思ったりもします。
 
 特に化学系弁理士として問題だと思うのは、「実験結果」を大事にしていない明細書に出会うことが多い、ということです。
 上にも書いたように、化学は各種技術分野のなかでも「実験結果」が重要となる技術分野です。特許の明細書を書くときも、その核になるのは必ず「実験結果」です(とはいえ、出願の目的等も色々ありますから、実際には「実験結果」から出てきたとは言えない出願も多くあるのですが)。
 
 しかし、公開された明細書を読んでいるとあまりにも実験結果を軽視した特許も多いように思います。実験データの内容と明細書の内容の食い違い、データ解釈のいい加減さが目立つ明細書は結構多いです。
 特許を取得するにはメカニスムの正確な理解は必要ではありません。しかしだからといって、実験結果をどのように解釈するのか、について雑になっていいわけではありません。
 そして、明細書を書く際に弁理士が気を配らなければならない一番のポイントはここのところではないのかなぁ、とも思います。


投稿者 八木国際特許事務所

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