特許コラム

2010年7月 8日 木曜日

非侵害の証明

 私が会社の特許部で働いていたときの体験談です。
 
 あるとき、競合他社から話したいことがある、との連絡がありました。
 その業界において、私が勤めていた会社が2位、連絡をしてきたのは業界トップの会社でした。面倒なので、私が勤めていた会社をA社、業界トップの会社をB社と書きます。
 
 そして、訪れたB社の方は、「貴社の製品Xは、B社の特許××××××という特許に抵触しているのではないか」と仰りました。
 B社は分析結果が示されていて、侵害との結論に至った理由も詳細に示されています。
 すぐに訴訟を、という話ではなかったのですが、とりあえず見解を下さい、ということでした。
 
 そこで技術部門に連絡をして確認したところ、「非侵害」との回答でした。
 問題になる特許は「成分A,成分B,成分C,成分D及び成分Eを含む組成物」という発明です。そして、A社の製品XはそのうちE成分を含まず、E´成分を含んでいました。
 E成分とE´成分とは別の成分であるし、均等が適用される余地も無い根本的な違いがある成分でした。
 ところが、それで良かった、とはならないのが難しいところです。
 
 こちらは「E成分を含みません」と回答したのですが、先方は納得しません。「こちらの分析結果からみると、E成分を含んでいるはずだ」と言います。
何しろ、製品Xは上述した成分A~Eだけではなく、その他にも多くの成分を含んでいる複雑な混合物です。それをちゃんと分析してE成分が入っているかどうか、立証することは簡単ではありません。
 
 B社の側は「E成分が入っていないのなら、なぜこのような分析結果になるのか」と詰め寄ります。しかし、A社側としては成分Eを使っていないことは知っているけれど、商品Xの分析結果がそのようになるのがなぜか、と言われてもそんなことは分からないのです。せいぜいが、「添加した他の成分が影響して、おかしな結果が出るのではないか」と反論する程度です。
 A社としてはA社なりの別の方法での分析を行って、E成分は入っていません、と主張するのですが、B社は納得しません。
 
 こうなってしまうと、水かけ論になります。私はこの交渉の途中でA社を退社してしまったので、その後どのようにして話が落ち着いたのかは知りません。ただ、訴訟にまではならなかったようなので、どこかでB社の方に納得してもらったのだと思います。
 
 ここのところも化学特許の難しさかもしれません。
 
 A社としては自分たちの実施内容から「非侵害」であることを分かっているのですが、「じゃあ、E成分が入っていないことを証明しろ」と言われると、その証明は決して容易ではありません。
 E成分が入っていないのにE成分が入っているという結果が出た、ということはB社の分析方法が妥当でなかった、ということになるわけですが、では、その分析方法のどこがいけないのか、ということになると誰にも分かりません。何しろ、その分析方法も、素人が一見した範囲では、理にかなった測定方法なわけです。
 
 B社の側からしても、最初に言い出した手前、事業部が納得するような回答をA社から引き出さない限り、簡単に引き下がるわけにもいきません。
 おそらくB社としてもA社の困惑には気が付いていたでしょうが、お互いに落とし所をどこにすればよいのか、困ったのが実際だと思います。
 
 化学特許の「分析」の問題の難しさを実感した事件でした。
 と同時に、「侵害をしていない」ときでも、特許の事件に巻き込まれてしまうことはある、ということを教えてくれた事件でもありました。



投稿者 八木国際特許事務所

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